ウインドオーケストラ・プリムラ「プリムラウィンドフェスティヴァル(2022/12/1)」演奏会レポート(岡田友弘)

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12月1日(木)、埼玉県所沢市の所沢市民文化センターミューズ、アークホールにて、ウインドオーケストラ・プリムラの演奏会「プリムラウィンドフェスティヴァル」が開催されました。

ウインドアンサンブル・プリムラは「音楽に触れることヘの大切さや尊さを多くの方に届けたい」(本公演プログラムより)という趣旨のもと設立された新しい吹奏楽団です。メンバー表を一通りみただけでも、最前線で音楽活動をしている音楽家が名を連ねており、開演前から期待が高まります。そのような気持ちをホールの最寄駅から約10分ほど、美しい道のりを歩きながらコンサートへの期待を高めていくのが所沢ミューズのコンサートの楽しみ方のひとつなのですが・・・今回は西武線の乗り継ぎに失敗・・・慌ててタクシーに飛び乗るという失態をしてしまいましたが、無事に会場に滑り込みました。

ホール入り口、このホールは客席数の割に入り口が狭いのですが、当日チケットを受け取る多くの方で行列ができていました。中には楽器ケースを持った学生や吹奏楽関係者と思しき方々が多数並んでおり、コンサートへの期待が高いんだなと実感しました。ホール内に入り、自席からホールを見渡すとそこにはコンサートに期待を膨らませている多くの方がいました。そのような高揚感のなかで開演のベルが鳴り演奏者が入場、男性は演奏家の正装である燕尾服、女性はカラフルなカラードレスを着用しており、華やかさの中に、演奏会にかける「気概」のようなものも感じました。演奏会では色々な衣装を音楽家が着用しますが、やっぱり燕尾服はカッコいいな!と思いました。

当日のプログラムは「イギリス」を中心の軸に据えたもので、その中にロシアの作曲家グリエールの《ホルン協奏曲》を織り交ぜた魅力的かつ重厚なプログラム。これは演奏する方もかなりの集中力やエネルギーを必要とするプログラムだな、とついつい演奏家目線で感じてしまいましたが、リスナー目線で考えたらとてもワクワクする曲が並んでいます。

当日の曲目はウィンドオーケストラ・プリムラのホームページをご覧いただけたらと思います。当日の出演者や配信についてのお知らせもあります。

後日配信があるということで、演奏の内容について深くお話しすることは極力避けようと思いますが、演奏会の中で僕が印象に残ったことをいくつか。

今回のプログラムで僕が「こだわり」を感じたのは、英国つながりであるということだけではなく、「ブラスバンド」いわゆる「英国式ブラスバンド」と吹奏楽の関係性です。オープニングに演奏されたフィリップ・スパークの《オリエント急行》、マーティン・エレビーの《エルガー・ヴァリエーション》、ヤン・ヴァン=デル=ローストの《カンタベリーコラール》の3曲は、元々ブラスバンドのために作曲された作品。それを作曲者自らが吹奏楽に「再作曲」した作品です。英国ではブラスバンドが盛んで、多くの名作があり、また様々なコンテストや人気楽団があります。単に「イギリス音楽」を特集した、というプログラムではなく、イギリスの音楽、吹奏楽やブラスバンド文化に対する造詣や敬意を感じました。それに絡む《ホルン協奏曲》、イギリスは昔から素晴らしいホルン奏者を多く輩出するなど管楽器にもゆかりの多い国。そして《エニグマ変奏曲》はイギリスを代表するクラシックの作曲家の名作ですが、この曲とエレビーの《エルガー・ヴァリエーション》は非常に密接な関わりを持っており、《エニグマ》の中にある音楽のエッセンスが《エルガー・ヴァリエーション》にはたくさん散りばめられています。この2曲が見事にコンサートの柱を作っていました。これから配信を楽しまれる方は、その辺りも注目してもらえると配信コンサートを2倍以上楽しめると思います。

コンサートの内容も最初から最後までとても楽しめるもので、「プロのワザ」を堪能できました。これは近隣の学校の演奏会や、一般楽団での楽しみ方とはまた違ったコンサートの楽しみ方です。その「ワザ」や「音楽性」を実際に体験することが、自分の楽器の練習や演奏に大きな効果をもたらしますから、そのような機会に触れることはとても大切ですね!それは僕のような演奏家も同様です。今回もものすごく刺激を受けました!

オープニングの《オリエント急行》は人気の作品なので、演奏経験がある方も多いと思います。それを最前線のプロが演奏するのですから・・・。技術的なことは言わずもがな、音楽的にもこの楽団の「思い」が伝わる演奏でした。まさにこのオーケストラの船出に相応しい選曲と演奏です。「船」ではなく「汽車」ではありますが・・・。曲中のトレインホイッスルの楽器の選択にもただならぬこだわりを感じました。このような「音楽の内容にふさわしい音色や音程の選択」に対する深いこだわりも「プロのワザ」のひとつですね。所沢ミューズの大ホールには素晴らしいパイプオルガンがあります。《オリエント急行》の最後の音で、まるでそのパイプオルガンが鳴り響いたかのようなサウンドがオーケストラから出たときには鳥肌が立ちました。「吹奏楽の理想はパイプオルガンの響き」とはよく聞かれる話ですが、まさにそれをリアルに体験できたことだけでも、このコンサートに行ってよかった!と思えました。これは実際のホールでないと体感できない感覚。それをもっとたくさんの吹奏楽愛好者に体感してほしいと強く感じた一瞬でした。こういう体験ができるから、コンサートに行くのがやめられない!

《エルガー・ヴァリエーション》はエルガーの音楽の引用ではなく、エルガーの音楽のエッセンスを楽曲にしたもので、技術的にも難しい作品です。この難曲をプロの演奏で聴いたのは初めてですが、高い技術で安定した音楽が展開されました。安定感はありますが「ギリギリのところを攻める」という「プロの本気」も感じました。それについてはこの曲に限らず全ての曲で感じました。ホルン協奏曲はオーケストラの共同代表もされている小川敦さんのソロ。大変丁寧で誠実な演奏が印象に残りました。オーケストラのサポートもまた献身的で温かいものであったことも印象的でした。まさに「協奏」であり「共創」であることを実感。

休憩を挟んで《カンタベリー・コラール》では吹奏楽のサウンドの魅力を堪能しました。力強い響きが吹奏楽の魅力ですが、実は弱音部、つまり「ピアノ」の響きも大きな魅力です。温かみと響きのあるピアノに感銘を受けました。このオーケストラは特にそのような部分に対する意識を強く持ったオーケストラなのでしょう。それ以外の曲でもそれを感じましたが、特にこの曲ではその気持ちがより強く伝わってきました。そしてメインの《エニグマ変奏曲》は管弦楽のための作品です。それを平原伸也さんの編曲で演奏されました。原曲で演奏するのも難しいこの作品を、吹奏楽アレンジで聴くのは初めてでしたが、吹奏楽の響きの魅力と可能性を感じられる演奏でした。この曲では有名な「ニムロッド」の温かく慈愛に満ちたサウンドが印象に残りましたが、僕が感銘を受けたのは打楽器の音色の多彩さとそのこだわり。特にシンバルに魅了されました。その音楽の部分部分の雰囲気に合わせた音量や音色の選択、奏法のヴァリエーションの多さを堪能しました。そのシンバル奏者がWBPのコラムでもお馴染み、僧侶兼打楽器奏者の福原さん。燕尾服姿のお坊さんも貴重でしたが、そのシンバルにはシビレました。これもまたライブのコンサートでしか体験できない魅力だと思います。

プログラムに載っていない曲も含めて、吹奏楽の魅力とプロのワザ、イギリス音楽の素晴らしさを楽しんだ演奏会。来場した方は存分に楽しんだのではないでしょうか。しかし、木曜日の夜の公演ということもあり東京郊外の所沢に足を運んだ方が少なかったのが唯一の心残りです。所沢のホールは非常に素晴らしいホールで、日本有数の良い響きを持っています。それが最も発揮されるのが「客席が多くのお客様で埋まっている状態」なのです。今度はその「最良な状態」で演奏を聴いてみたいなと思います。満席だと演奏者のテンションも、パフォーマンスも上がりますからね。

「関東で唯一、民間による常設オーケストラが無い埼玉県に新たな団体を」(当公演プログラムより)という想いで構想されたプリムラ、これからも演奏機会を重ねてオーケストラとして成長していくことを僕も願っています。そのためにももっと多くの方にプリムラの魅力とそのサウンドをコンサートホールで体感してもらえたらな・・・そのようなことを思いながらすっかり寒くなった夜道を航空公園駅まで、今度は歩きました。

航空公園駅は「所沢航空記念公園」が所在しているのが駅名の由来です。この場所に明治44年(1911年)4月、所沢に日本初の飛行場が開設されました。そのような地で旗揚げ公演をした「ウインドオーケストラ・プリムラ」の初飛行は無事に成功しました。今後はより高く、より遠くへ飛び、多くの吹奏楽ファン、音楽ファンを楽しく素敵な「旅」に誘ってくれるはずです。オープニングは「オリエント急行」でしたが・・・。飛行機に乗ってたのしい「旅」に出るには、その飛行機に乗らないといけません。もちろん飛行機を見る楽しみもありますが、ぜひプリムラという名の飛行機に乗って(演奏会に行って)一緒に楽しい音楽の旅を楽しんで欲しいですね。これからのプリムラの活動に注目していきたいです。また一つ、気になるプロ吹奏楽団が増えました。


レポート:岡田友弘(指揮者)




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